この商品を作る前、僕は10年以上、小売の仕事をしていました。
メーカーから商品を仕入れ、お客様に届ける。
けれど、年々仕入れ値は上がり続けるのに、売値はそう簡単には上げられない。
「このまま続けていて、本当に持続できるのか?」
そんな疑問と焦りが心の中に大きくなっていきました。
それなら、自分で“作る側”にまわろう。
自分たちの手で、価値ある商品を生み出そう。
そう決意して、開発に取り組んだのが「信楽焼に入ったたぬきクッキー」でした。
実は当時、もう一つ別の商品も開発しました。
でも、今も残っているのはこのたぬきクッキーだけ。
それは、単に売れたからではなく、“この商品には、自分の人生を通じてやりたいことが詰まっている”と、気づいたからです。
僕には障がい者の息子がいます
僕の息子は障がいがあります。
その息子の友だちや、その家族と関わる中で、
うちも含めて多くの方が「将来、この子たちはどうやって働いて、どうやって暮らしていくのだろう」と大きな不安を抱えていることを知りました。
だから、商品を作るなら、障がい者がちゃんと仕事として関われるものにしたい。
それが、僕にとっての大前提でした。
現実には、障がい者施設で作られる商品は低単価のものが多く、
「応援したいから」「福祉のために」という気持ちで買ってもらうことがほとんどです。
けれど、これから高齢化や障がい者人口の増加で社会福祉の負担が膨らんでいく中で、このままでは不安はなくならない。
だからこそ、僕は挑戦することにしました。
「単純に欲しいと思ってもらえるくらい、良いものを。」
それを、障がい者の手を借りながら、ちゃんとした“仕事”として成立させたい。
そんな想いが、この商品には込められています。
そうして「障がい者が関われる、きちんとした“仕事”になる商品をつくる」と決めたものの、何を作ればそれが実現できるのか、具体的な形がすぐに浮かんだわけではありません。
まず考えたのは、「高単価でも、ちゃんと価値を感じてもらえる商品」であること。
そうでなければ、関わる人たちにきちんとした対価が届きません。
なぜ、信楽焼だったのか
そのとき、ふと思い出したのが信楽焼のことでした。
以前から地元の窯元と取引があり、作り手の顔や現場の空気をよく知っていた僕にとって、
信頼できるものづくりの現場がすぐ近くにあるというのは、大きな安心でした。
「信楽焼の器に何かを入れて売ることで、価値のある商品が作れるのではないか」
そんな考えが浮かびました。
ただ、器を売るだけではなくプラスαの魅力を。
そこで次に考えたのが、“クッキー”を中に入れることでした。
クッキーは子どもから大人まで幅広い人に親しまれていて、
実際に多くの障がい者施設で製造されている実績もあります。
賞味期限が長くギフトにも適していて、見た目のアレンジもしやすい。
何より、障がい者の方が携わる現場として、すでに経験や強みがある。
「これならいける」と思いました。
そして最後に、「じゃあ、どんなクッキーを入れるか?」を考えたとき、
自然と浮かんできたのが――たぬきでした。
信楽といえば、やっぱり“たぬき”。
昔から町のあちこちで親しまれてきた、信楽焼の象徴ともいえる存在です。
それなら、信楽焼の器に、たぬきの形をしたクッキーを入れてみよう。
見た目にもインパクトがあって、誰かに贈りたくなるような商品になる。
しかも食べ終わったあとには、器として使い続けることができる。
そんなふうにして、
「信楽焼に入ったたぬきクッキー」という、ちょっと不思議で、
だけどちゃんと意味のある商品が、少しずつ形になっていきました。
クッキー缶を超えた贈り物に
この商品を、どんな人に届けたいか。
それは、「誰かに何かを贈りたい」と思ったすべての人です。
ただ甘いものを贈るだけじゃなく、
その人の心に残るものを届けたいと思ったときに、
このたぬきクッキーを選んでもらえたらうれしいです。
僕自身、この商品で「クッキー缶を超えたい」と思っています。
食べて終わるだけじゃなく、
器として日々の暮らしの中に残っていく。
そしてその裏側では、障がいのある方が仕事として関わっている。
そんなふうに、「贈る・食べる・使う」すべてが、ちゃんと意味を持っている商品にしたかった。
贈る人にも、贈られる人にも、そして作る人にも、
ちゃんと価値が届くような、そんな存在でありたいと願っています。
滋賀人らしくありきたりの言葉で締めます。
「三方よし」な商品ができたと自負しています。